『ペンションメッツア』は、2021年1月16日から毎週土曜深夜にWOWOWプライムで放送されたテレビドラマです。
全7話の主演は小林聡美さん。長野県にあるペンションを1人で営むテンコを演じています。
「メッツア」はフィンランド語で「森」を意味しますが、実際にこのペンションは木々に囲まれた自然豊かな場所にあります。観ているだけでも深呼吸したくなるような、美しい自然の映像はとても魅力的。
1話毎に異なる豪華ゲストが登場し、小林聡美さん演じるテンコとのやりとりが見どころです。
特に注目したいのは、役所広司さん出演の第1話、光石研さん出演の第6話。
それぞれファンタジー要素を含んだちょっと不思議なお話になっています。観終わったあとすぐにもう一度観たくなってしまうこと間違いなしです。
本記事はネタバレを含みますので、一度ドラマをご覧になった後にご覧ください。
第1話「山の紳士」(出演:役所広司)
1話に登場するゲストは、なんと日本を代表する俳優の役所広司さん。豪華すぎるゲストに初回からワクワクしますね。
役所さん扮するのは「常木」と名乗る宿泊客。
ある日外で草刈りをしていたテンコは、急に茂みの陰から現れた常木に驚かされます。そして宿を探していたという常木は、そのままメッツアに宿泊することに。
愛想もよく、宿泊客にも関わらずテンコの仕事の手伝いを申し出るなど人懐っこい常木ですが、所々不思議にひっかかるところがあります。
例えば、葉っぱを頭に付けて、急に茂みの中から登場するところ。
そしてテンコを手伝い外で草取りをしていたとき、犬の鳴き声に過剰に驚き、逃げ隠れるような素振りを見せたとき。
さらには、夕食に出されたハンバーグを「これはなんというお料理ですか!?」と、まるで初めて見た料理であるかのようなセリフ。
その他にもちょっと??と思うような言動が続きます。ただの変わったおじさんんなのか、それとも…。
しかし最後に、常木の正体が明らかになります。
『ペンションメッツア』「つねき」は「キツネ」だった!?
夜が明け次の日の朝、朝食の準備ができたとテンコが常木の部屋に呼び行くと、そこはもぬけの殻。ベットも使用した形跡はありません。
その代わり、ベットの上には立派な松茸が置いてありました。
首をかしげるテンコは「常木、常木、つねき、つねき、つねきつねきつねきつね…きつね」と呟きます。
そう、「常木」の正体は、まさかの「キツネ」常木が姿を消したあとのシーンでは、実際にキツネが森を歩いているシーンも映し出されます。
ちょっと不思議でほっこりする第1話でした。
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第2話「ひとりになりたい」(出演:石橋静河)
キャンプ場に一人でやってきたのは、20代の若い女性、ミツエ(石橋静河)。
テントを張っていると、そこにいたおじさんキャンパーにあれこれと口うるさく話しかけられ、うんざりしてしまいます。
ついにそのキャンプ場を離れ、別の場所を探していたところ、偶然テンコと出会いメッツアに宿泊することに。
ミツエと一緒に夕食を取りながら、若いころは自分も一人キャンプをしていたと話すテンコ。
そのあと2人は部屋の中でテントを張り、その中でミツエが持ってきたお酒を一緒に飲みます。
保育士をしているミツエは、子供は好きだけど、たまに人の声が一切しない静かな場所で、猛烈に一人っきりになりたくなると話します。
子供たちには正しい人のように接しているけれど、立場だけで自分の本質は違うのではないか。みんなに優しくしなさいと叱ったりすることもあるのに、誰にでも優しくするなんて本当は無理ですよねと。
「それでいいのでは」「誰もが一人になりたいときもあるし、だからこそ人と一緒にいる良さも感じられるのでは」とテンコは言います。
普段漠然と抱えている、誰にも言わないような気持も、メッツアではふと洩らしたくなる。宿泊者にとって、とても落ち着ける居心地の良い場所なんですね。
第3話「燃す」(出演:板谷由夏)
世界中を駆け回るカメラマンで常連客のフキ(板谷由夏)が久々にテンコを訪ねてきます。
真夏の暑い中、2人は庭でフキの写真のポジフィルムを焚火で燃やすことに。燃やしながらテンコは「写真はその人がそのまま出るから面白いよね」と話します。
やがて場面は夕食のシーンに。
自分の仕事について、きれいだなと思ったもの、面白いと思ったものをほんのちょっと人にも見せたいなと思っているだけと話すフキ。
そして、写真を撮るのが好きだからカメラマンをやってるのに、なんか違う、最近モヤモヤしていると話します。
「そんな堅苦しく考えなくても良いよ。それが人の面白さでもあるけれど」と話すテンコ。
そしてテンコもまた、向いていることをしていると思ったことは一度もないと話します。
まさか自分がペンションをやるとは思ってなかったと。なんでこんなことやってるのかはわからないけど、偶然だと思うことも結局は自分が選んでいるんだよねと続けます。
「フキさんも他のことをやってても、結局写真撮りたくなるかもしれないよ。」
「さっき写真を燃やしたように、私たちもやがて燃えてなくなる。その時まで、見続けるのも面白いかもね。出かけていってみるのも、同じところでじっとしてみているのも、そんなに変わらないんじゃない?」
そんなテンコの言葉に、どこか吹っ切れたようにスッキリとした表情を見せるフキ。
アドバイスしたり否定も肯定もすることなく、さらっとフラットな視点で意見を述べて、相手の心を軽くするテンコが素敵だなと思いました。
小林聡美さん、板谷由夏さんのあまりにも自然体な演技を観ていると、ドラマを観ているというより、実在している2人を外から眺めているような不思議な気分になる回でした。
第4話「道半ば」(出演:伊藤健太郎)
ある日テンコが玄関にいると、自転車に跨がり汗だくでこちらを見つめる青年に出会います。
声をかけると、水をもらえないかと頼まれ、ペンションに案内するテンコ。
冷たいお茶を渡すと、泣きながら一気にそれを飲み干す青年。そして今晩泊めてほしいということでペンションに泊まることになります。
青年は、伊藤健太郎さん演じる大学生のソウマ。ソウマは自転車で日本1周をしていて、実は既に1度ゴールはしており、今2周目なのだそう。
なんでも今日は自転車のタイヤがパンクして、そのあと携帯電話をなくして探し回っていたらここにたどり着いたのだとか。
ソウマは語ります。自転車に乗っていると、人が応援してくれて、食べ物をくれたり、家に泊めてくれたり優しくしてくれる。
なんだか自分がすごいことをしているような錯覚に陥って、それが癖になって辞められなくなって、2周目に入ったのだと。
「でも本当は自分はそんな扱いを受けるに値する、価値のある人間ではない」と続けるソウマ。
それにテンコは、「何もあなたが価値があるからみんな親切にしているわけではない。
親切にしてくれた人たちはきっと今頃あの子はどうしてるかな、と思い出しているんじゃないかな。たまたま出会ったもの同士、お互い様なのでは」と伝えます。
何気ない一言ですが、一期一会、出会った人には親切にしたいなと改めて思ったテンコの一言でした。
第5話「ヤマビコの休日」(出演:山中崇)
1話目から時々登場する野菜の配達員「ヤマビコストアー」のヤマビコ(山中崇)のお話です。
とある日、テンコは山奥にある湧き水がある場所を訪れると、そこで偶然ヤマビコに会います。そしてペンションまで車で送ってもらったテンコは、ヤマビコにお茶を出します。
初めてメッツアの室内に入ったというヤマビコは、以前家を建てる仕事をやっていた過去を明かします。
さらには、昔テンコがアルバイトをしていた喫茶店でも仕事をしていたという意外な共通点も判明。
話も盛り上がってきたため、車は次の日取りに来ればよいからと、2人はお酒を飲みながら話し始めます。
職人の仕事を辞めてふらふらしているとき、なんとなく印象に残っていたこの地に戻ってきたというヤマビコ。
ちょうど仕事の人を探していた社長に拾ってもらい、今の配達の仕事を始めたと経緯を話します。
ヤマビコは話します。この仕事にすぐ飽きると思っていたけれど、毎日同じようなことをしているようだけど、季節によって野菜の種類が変わるし、同じところを走っていても景色も変わる。
お客さんの人生の嬉しいイベントや悲しい出来事、その中に自分が関わっていることって、なんだかいいなと。
温かくて素敵なお仕事ですね。
その後ヤマビコは帰宅し、テンコは一人夕飯を作り、それを食卓に並べ、食事をします。
ここではテンコの食事のシーンがしばらく続くのですが、個人的にはこの食事シーンがとても印象的でした。
なんのセリフもなく、特別な演出もなく、ただただ淡々と食べるシーンが2分ちょっと続きます。
その間、食事中のテンコを映すカメラが左から右へとゆっくり動き、ピアノの音楽が流れるだけ。
ここでも小林聡美さんはとても自然な演技をされており、食べるだけで長時間魅せられる女優さんの凄さを感じました。
実力派俳優のお2人が柔らかな雰囲気の中、穏やかに会話を重ねる姿や言葉がとても心地よく、何度も繰り返し観たくなるような回でした。
第6話「むかしの男」(出演:光石研)
ある日テンコの元に、かつての恋人コマちゃん(光石研)が作務衣姿で勿忘草(わすれなぐさ)を抱え、突然訪ねてきます。
突然の訪問にテンコは驚きながらも、ペンションの中にコマちゃんを通します。
コマちゃんの入れてくれたコーヒーを飲みながら、二人は懐かしい思い出を語り合い、かつて通ったカラオケスナックで歌った歌を一緒に歌い、楽しいひと時を過ごします。
その後2人は他愛もない話をしながら、ペンションの周辺を歩きます。
「もう少し早く来ればよかった」というコマちゃんに、「そうだね。ちょっと遅かったね」と答えるテンコ。
しばらく歩いた後、2人はベンチに腰かけて話し続けます。
「コマちゃんの今いるところってどうなの?」「うん、いいところだよ。あまり詳しくは話せないけど、穏やかで気に入ってる」
そんな話をしながら、時折昔の恋愛を懐かしむような話もします。
やがて「あー、今日は会えてよかった。よし、僕そろそろ行くね。」「もう行っちゃうの?」「うん、明るいうちに戻んないと。」「逆かと思ってた。」
こんな会話をして、コマちゃんはテンコを背にして去っていきます。
見送ったテンコはペンションに戻ると、花瓶に生けたコマちゃんの勿忘草の前に、コマちゃんの若かりし頃の写真を飾ったところで、エンドロールが流れます。
一見すると、昔の恋人に久々に会って和やかな時を過ごしただけにも思える6話ですが、実はファンタジー要素の詰まった不思議なお話だったのです。
『ペンションメッツア』の「むかしの男」は死んでる!?
実は「むかしの男」ことコマちゃんは、既に亡くなっており、亡くなった後にテンコに会いに来たんです。
コマちゃんが亡くなっていることを示唆する、やりとりや場面をみていきましょう。
まずは2人の会話から。
「もう少し早く来ればよかった」「そうだね。ちょっと遅かったね」
⇒ちょっと遅かったというのは既に亡くなった後だったから。
「コマちゃんの今いるところってどうなの?」「うん、いいところだよ。あまり詳しくは話せないけど、穏やかで気に入ってる」
⇒あまり詳しくは話せないという点と、穏やかで気に入っているというセリフから天国が連想されます。
「あー、今日は会えてよかった。よし、僕そろそろ行くね」「もう行っちゃうの?」「うん、明るいうちに戻んないと」「逆かと思ってた」
⇒逆かと思ってたというセリフ、普通に考えると違和感がありますね。
さらにはコマちゃんが帰るとき、テンコを背にして真っすぐな長い道を歩いています。
この時カメラがコマちゃんの後ろ姿からテンコに切り替わり、そのすぐ後に再度コマちゃんが帰っていった方を映すのですが、この時にはもうコマちゃんの姿はありません。
この小道は見通しが良く、かなり長い距離を一直線に走っているので、一瞬で道の先までたどり着くことはできません。
コマちゃんの姿は途中で消えたんですね。
最後にペンションに戻ったテンコが、花の前にコマちゃんの写真を飾るのも、コマちゃんが亡くなっていることを暗示しています。
しかもコマちゃんが持ってきた花は「勿忘草(わすれなぐさ)」
勿忘草の名前の由来は、英名”Forget me not”の直訳「私を忘れないで」であることに注目です。
その名の通り、記憶や想いを象徴する花として知られており、ドラマなどでは別れや再会、永遠の愛、友情といったテーマでよく使われるそうです。
皆さんはコマちゃんが亡くなっていたことにすぐ気が付きましたか。
真実を知った後、もう一度観直したくなる回でした。
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第7話「さすらう」(出演:三浦透子)
最終話である第7話は、少し意外な結末を迎えます。
ある日、テンコがペンションの掃除を終えた頃、ヤマメ(三浦透子)がスイカを手土産に訪れます。
ヤマメはテンコがペンションを始めた当初から母親と共に宿泊していた常連客。ヤマメの母親は数年前に亡くなっていました。
2人はヤマメの好きな焼きそばと焼きとうもろこしを一緒に作り、それを食べながらヤマメの母親の思い出話に花を咲かせます。
夕食後、2人でスイカを食べているとき、テンコは突然ヤマメに「ここに住まない?」と提案します。テンコはここを出ていくことを考えていました。
新しいことを始める決意を固めていたテンコは、ペンションをレストランにしたら?と、ヤマメにも新たな挑戦を勧めます。
翌日ヤマメが帰る際、テンコはペンションの鍵を手渡し、「ヤマメの自由にしたらいいよ」と伝えます。
「テンコさんはどうするの?」の問いには、「決まったらハガキ書くよ。」と答えます。
その後、テンコは部屋のカーテンを閉め、小さなキャリーケースを1つだけ持ち、ペンションを後にします。
行き先を決めず、新しい場所へと旅立つテンコの姿が印象的に描かれていました。
『ペンションメッツア』と、もたいまさこ
いかがでしたでしょうか。慌ただしい日常を忘れて、気負わず穏やかな世界観を楽しめるペンションメッツアをぜひご覧ください。
最後に忘れてはいけないのが、小林聡美さん主演作には欠かせない「もたいまさこ」さんの出演です。
もたいまさこさんは、セリフはありませんが全7話すべてにご出演されています。
各回お話の最後に、鮮やかなブルーのロングワンピースを纏って森の中に佇む様子が映し出されるのですが、その姿はまるで森の精霊のようで、独特の存在感を放っています。
是非注目してみてくださいね。